悩める応物生のための相対論入門

こんにちは、物理工学科B3のtaigaです。本記事は2023年東大応物アドカレ

物工/計数 Advent Calendar 2023 - Adventar

の6日目(2人目)の記事となります。各自思い思いの記事を書いているのでぜひ他の日も覗いてみてください!

この記事では特殊相対論の記法について簡単にまとめます。東大応物のカリキュラムではしっかりと(特殊)相対論を学ぶ機会がありません。しかし、3Aセメスターになるとさも既知かのように相対論でよく見るテンソル記法や電磁場テンソルがガンガン講義で登場します。このような事態に悩む応物生(特に物工生)のために相対論で現れるテンソル解析の記法やマクスウェル方程式の書き換えを中心にまとめてみました。何かの参考になれば幸いです。

前提知識としては2Aまでの電磁気などで習うローレンツ変換がなんとなく頭にあれば大丈夫 (なつもり)です。
※著者はごく標準的な学部3年ですので、内容の誤り等あるかと思いますが、優しくご指摘くださると大変助かります。

相対論の基礎

まず、釈迦に説法かもしれませんが特殊相対性理論の基礎事項を書いておきます。

  • 相対性原理
    物理法則は慣性系に依らない。言い換えると、物理現象を支配する方程式は他の慣性系に座標変換しても不変に保たれる。
  • 光速度不変の原理
    光の速度は慣性系に依らず常に一定値を取る。

光速度不変の原理から、相対論では世界間隔

 \displaystyle ds^2=c^2dt^2-dx^2-dy^2-dz^2

が慣性系に依らず一定になります。世界間隔を一定に保つ慣性系間の座標変換としてローレンツ変換を学んだかと思います。静止系 K(ct, x, y, z)に対して x方向に速さ Vで等速運動している慣性系 K'(ct', x', y', z')の間の変換公式をおさらいしておきます。

 \displaystyle x'=\frac{x-Vt}{\sqrt{1-\dfrac{{V}^2}{c^2}}},\ y'=y,\ z'=z,\ ct'=\frac{ct-\dfrac{V}{c}x}{\sqrt{1-\dfrac{{V}^2}{c^2}}}

ローレンツ変換のもとでマクスウェル方程式が不変(式の形が変わらない)であることや c\rightarrow\inftyガリレイ変換になることも有名かと思います。詳しい相対論の議論については相対論の教科書に任せます。


上付き下付きの添字たち

さてここからが本題です。講義で突然登場した x^\mu x_\muの正体を明かしていきましょう。
 x^\mu4次元時空座標四元ベクトルと呼ばれ、以下で定義されます。

 \displaystyle x^\mu=(x^0, x^1, x^2, x^3)\equiv (ct, x, y, z)

右上に添字 \muが付いていますがこれはべき乗でないことに注意してください。 x^0に時間 ctを割り当て、残りは空間座標です。四元ベクトルを扱う空間をミンコフスキー空間と呼びます。これに対し添字が下になっている x_\mu

 \displaystyle x_\mu=(x_0, x_1, x_2, x_3)\equiv (ct, -x, -y, -z)

すぐにわかるように空間座標の成分の符号が -になっています。

 x^0=x_0,\ x^1=-x_1,\ x^2=-x_2,\ x^3=-x_3

また x^\mu反変ベクトル,  x_\mu共変ベクトルと呼びます。次にこれらの内積を導入します。

 \displaystyle x^\mu x_\mu=x_\mu x^\mu=(x^0)^2-(x^1)^2-(x^2)^2-(x^3)^2

反変ベクトルと共変ベクトルの各成分の積を足しています。4次元時空座標では

 \displaystyle x^\mu x_\mu=c^2t^2-x^2-y^2-z^2

となり世界間隔との関連が見て取れます。こうした積は上と下に添字があるものについてのみ取れることに注意してください。 x^\mu y^\muのように書いても積を取ったことになりません。またすでに気づいているかもしれませんが、上と下に同じ文字があれば和を取るというルール(アインシュタインの縮約規則)にも注意しておきます。この規則は慣れるまでわかりにくいと思いますので、初めのうちは顕に和を書き下すのも良いかもしれません。

さて、上と下の添字に区別があることはわかりましたが、添字の上下を変える操作は許されるのでしょうか。実際には計量テンソルと呼ばれる量 \eta_{\mu\nu}が定義されており、添字を自由に上げ下げすることができます。わかりやすく行列表示すると以下のようになります。

 \eta_{\mu\nu}= \begin{pmatrix} 1&0&0&0\\ 0&-1&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&-1\\ \end{pmatrix}
実際に
 \displaystyle \eta_{\mu\nu}x^\nu=\sum_{\nu=0}^{3}\eta_{\mu\nu}x^\nu=(x^0,\ -x^1,\ -x^2,\ -x^3)=x_\mu

のように上付きのベクトルが下付きになりました(ベクトルの縦横は積が取れるように考えてください)。下付きのベクトルに対しては逆行列

 \eta^{\mu\nu}= \begin{pmatrix} 1&0&0&0\\ 0&-1&0&0\\ 0&0&-1&0\\ 0&0&0&-1\\ \end{pmatrix}

を用いれば良いです。行列(のようなもの)とベクトルの積を考えるときも上と下の添字のペアを作ることを意識しましょう。

次にローレンツ変換がどのように表現されるか考えます。四次元時空座標を用いて書くと、前の章で確認した x方向のローレンツ変換

 \displaystyle {x'}^\mu=
\begin{pmatrix}
ct'\\
x'\\
y'\\
z'
\end{pmatrix}
=
\begin
{pmatrix}
\frac{1}{\sqrt{1-V^2/c^2}}&\frac{-V/c}{\sqrt{1-V^2/c^2}}&0&0\\
\frac{-V/c}{\sqrt{1-V^2/c^2}}&\frac{1}{\sqrt{1-V^2/c^2}}&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
ct\\
x\\
y\\
z
\end{pmatrix}

のように書けます。 x方向だけでない一般のローレンツ変換は(空間回転も合わせて)行列 \Lambda^{\mu}_{\nu}(ローレンツ変換のパラメータ)を用いて

 \displaystyle {x'}^\mu=\Lambda^{\mu}_{\nu} x^{\nu}

と表せます。ここで右辺では \nuについて和を取っていることに注意してください。行列で書くなら

 \displaystyle {x'}^\mu=
\begin{pmatrix}
{x'}^0\\
{x'}^1\\
{x'}^2\\
{x'}^3
\end{pmatrix}
=
\begin
{pmatrix}
\Lambda^{0}_{0}&\Lambda^{0}_{1}&\Lambda^{0}_{2}&\Lambda^{0}_{3}\\
\Lambda^{0}_{1}&\Lambda^{1}_{1}&\Lambda^{1}_{2}&\Lambda^{1}_{3}\\
\Lambda^{0}_{2}&\Lambda^{2}_{1}&\Lambda^{2}_{2}&\Lambda^{2}_{3}\\
\Lambda^{0}_{3}&\Lambda^{3}_{1}&\Lambda^{3}_{2}&\Lambda^{3}_{3}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
{x}^0\\
{x}^1\\
{x}^2\\
{x}^3
\end{pmatrix}

です。ただし、行列表記にこだわりすぎると高階のテンソルの理解に支障があるかもしれません(坂本場の量子論より)ローレンツ変換のパラメータ \Lambda^{\mu}_{\nu}の添字が上と下両方にあるのは \Lambda^{\mu}_{\nu} x^{\nu}を考える際、 \nuについては和を取るので \nuは下、変換後は上付きのベクトルにならなければならない(元が x^{\mu}だから)ので \muは上、というように考えるとよいです。ここまで4次元時空座標について考えていましたが、一般にローレンツ変換により {a'}^{\mu}=\Lambda^{\mu}_{\nu} a^{\nu}のように変換する量 a^\muを反変ベクトルと呼びます。また共変ベクトル x_{\mu}については

 \displaystyle {x'}_\mu=x_{\nu}(\Lambda^{-1})^{\nu}_{\mu}

のように変換されます( x方向のローレンツ変換で具体的に計算するとわかるかと思います)。このように定義しておけば、ローレンツ変換の前後で内積 x_{\mu}x^{\mu}

 \displaystyle {x'}_\mu{x'}^\mu=x_{\rho}(\Lambda^{-1})^{\rho}_{\mu}\Lambda_{\nu}^{\mu}x^{\nu}=x_{\rho}\delta^{\rho}_{\nu}x^{\nu}=x_{\nu}x^{\nu}(=x_{\mu}x^{\mu})

のように不変になることが分かります。和を取らない添字については違う文字を使うことに注意してください。ただしここで

 \displaystyle (\Lambda^{-1})^{\rho}_{\mu}\Lambda_{\nu}^{\mu}=\delta^{\rho}_{\nu}

を用いました。右辺はクロネッカーのデルタで \rho=\nuのとき1となり、 \rho\neq\nuのときは0です。これは行列表記で \Lambda^{-1}\Lambda=I_4であることを考えれば分かります。このようにローレンツ変換の前後で不変な量をスカラーと呼びます。

最後にテンソル(テルソンではない)を導入して終わります。一般に2つ以上の添字を持つ量をテンソルと呼びますが、例として添字が2つの2階のテンソルについて考えます。ローレンツ変換によりどのように変換されるかが重要です。添字の付け方は T^{\mu\nu},\ T^{\mu}_{\nu},\ T_{\mu\nu}がありますが、それぞれ変換性は以下のようになります。

 
\begin{align*}
&{T'}^{\mu\nu}=\Lambda^{\mu}_{\rho}\Lambda^{\nu}_{\lambda}T^{\rho\lambda}\\
&{T'}^{\mu}_{\nu}=\Lambda^{\mu}_{\rho}T^{\rho}_{\lambda}(\Lambda^{-1})^{\lambda}_{\nu}\\
&{T'}_{\mu\nu}=T_{\rho\lambda}(\Lambda^{-1})^{\rho}_{\mu}(\Lambda^{-1})^{\lambda}_{\nu}
\end{align*}

右辺では \rho,\ \lambdaについて和を取っていることにもう慣れてきたでしょうか。右辺で消えずに残る添字は \mu,\ \nuで左辺と同じです。また、和を取らない添字に対しては異なる文字を使って表記します。意味が分かりにくい場合は行列 Tローレンツ変換の変換行列 \Lambdaとのその逆行列 \Lambda^{-1}を掛けていると考えれば良いです。2階のテンソルではローレンツ変換の変換行列が2回掛けられて変換されるイメージです。
テンソルの添字についても計量テンソルを用いて上げ下げが可能です。例えば

 \displaystyle T^{\mu\nu}=\eta^{\nu\lambda}T^{\mu}_{\lambda}=\eta^{\mu\rho}\eta^{\nu\lambda}T_{\rho\lambda}

のような関係があります。これは一般のテンソルに対しても用いることができます。

ここまでくれば、上付き下付きの文字で書かれた数式の意味がわかってくるかなと思います。また、相対論的量子力学ではスカラー、ベクトル、テンソルと異なる変換性をもつピノも登場します。

電磁場テンソルマクスウェル方程式

さてここからはマクスウェル方程式を相対論形式に書き換えることを目指します。電場を \boldsymbol{E}、磁束密度を \boldsymbol{B}としたマクスウェル方程式(微分形)

 
\begin{align}
&\nabla\cdot\boldsymbol{B}=0\\
&\nabla\times\boldsymbol{E}+\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}=\boldsymbol{0}\\
&\nabla\cdot\boldsymbol{E}=\frac{\rho}{\varepsilon_0}\\
&\nabla\times\boldsymbol{B}-\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}=\mu_0\boldsymbol{j}
\end{align}

についてはよくご存知かと思います。ここで真空の誘電率 \varepsilon_0透磁率 \mu_0があると式が煩雑になるので、次のような単位変換を施します(ヘビサイド-ローレンツ単位系)。

 
\begin{align}
&\sqrt{\varepsilon_0}\boldsymbol{E}\rightarrow\boldsymbol{E}\\
&\frac{\boldsymbol{B}}{\sqrt{\mu_0}}\rightarrow\boldsymbol{B}\\
&\frac{\rho}{\sqrt{\varepsilon_0}}\rightarrow\rho\\
&\frac{\boldsymbol{j}}{\sqrt{\varepsilon_0}}\rightarrow\boldsymbol{j}
\end{align}

これによりマクスウェル方程式

 
\begin{align}
&\nabla\cdot\boldsymbol{B}=0\\
&\nabla\times\boldsymbol{E}+\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}=\boldsymbol{0}\\
&\nabla\cdot\boldsymbol{E}=\rho\\
&\nabla\times\boldsymbol{B}-\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}=\boldsymbol{j}
\end{align}

のように見やすくなります。次に、電場 \boldsymbol{E}、磁場 \boldsymbol{B}に対してベクトルポテンシャル \boldsymbol{A}スカラーポテンシャル \phiを以下のように与えます。

 
\begin{align}
&\boldsymbol{E}=-\nabla\phi-\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}\\
&\boldsymbol{B}=\nabla\times\boldsymbol{A}
\end{align}

このように与えるとマクスウェルの方程式の一つ目( \nabla\cdot\boldsymbol{B}=0)と二つ目( \displaystyle\nabla\times\boldsymbol{E}+\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}=\boldsymbol{0})が自動的に満たされることも既にどこかで学んだことかと思います(ベクトル解析の公式から  \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{A}=0),\ \nabla\times(\nabla\phi)=0が成立することを用いればよいです)。後は残りの2つの式をなんとかしていきましょう。

目標は2つの式を1つにまとめることとなります。電場 \boldsymbol{E}、磁場 \boldsymbol{B}の自由度を考えるとそれぞれ空間成分3つを持つので6個の自由度を持つ量で表すのが適切です。これには2階の反対称テンソル F^{\mu\nu}を持ちいれば良いです。反対称テンソルとは F^{\mu\nu}=-F^{\nu\mu}となるテンソルを指します。2階の反対称テンソルでは16個の成分がありますが、反対称性から対角成分 F^{\mu\mu}は0、のこりの12成分は反対称性を満たすため自由度が半分になり、結局好きに決められる成分は6個になります。問題はどのようにこのテンソルを構成するかですが以下のように与えれば良いです。

 F^{\mu\nu}=\partial^{\mu}A^{\nu}-\partial^{\nu}A^{\mu}

いろいろと未定義な表現を用いているので補足していきます。まず \partial^{\mu}については

 \displaystyle \partial^{\mu}=\frac{\partial}{\partial x_{\mu}}=\left(\frac{\partial}{\partial x_0}, \frac{\partial}{\partial x_1}, \frac{\partial}{\partial x_2}, \frac{\partial}{\partial x_3}\right)=\left(\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t}, -\frac{\partial}{\partial x}, -\frac{\partial}{\partial y}, -\frac{\partial}{\partial z}\right)

を表しています。これはローレンツ変換の下でベクトル量になります。実際にローレンツ変換を考えると

 \begin{align}
\partial^\mu
&=\frac{\partial}{\partial x_{\mu}}\\
&=\frac{\partial x'_{\nu}}{\partial x_{\mu}}\frac{\partial}{\partial x'_{\nu}}\\
&=\frac{\partial(x_{\rho}(\Lambda^{-1})^{\rho}_{\nu})}{\partial x_{\mu}}\frac{\partial}{\partial x'_{\nu}}\\
&=(\Lambda^{-1})^{\mu}_{\nu}\partial'^\nu
\end{align}

つまり \partial'^\nu=\Lambda^{\nu}_{\mu}\partial^\muとなり、確かに \partial^{\mu}は反変ベクトルとなっています。次に A^{\mu}四元ベクトル場

 \displaystyle A^{\mu}=(A^0, A^1, A^2, A^3)=(\phi, \boldsymbol{A})

であり、スカラーポテンシャル \phiベクトルポテンシャル \boldsymbol{A}をひとまとめにしたものです。これもベクトル量です。反対称テンソル F^{\mu\nu}=\partial^{\mu}A^{\nu}-\partial^{\nu}A^{\mu}電磁場テンソルと呼ばれ、行列形式で成分を書くと以下のようになります。

 \displaystyle F^{\mu\nu}=
\begin{pmatrix}
0&-E^1&-E^2&-E^3\\
E^1&0&-B^3&B^2\\
E^2&B^3&0&-B^1\\
E^3&-B^2&B^1&0
\end{pmatrix}

これは定義に基づいて計算すれば分かります。例えば

 
\begin{align}
&F^{01}=\partial^0A^1-\partial^1A^0=\frac{1}{c}\frac{\partial A^1}{\partial t}-\frac{\partial \phi}{\partial x}=-E^1\\
&F^{23}=\partial^2A^3-\partial^3A^2=\frac{\partial A^3}{\partial y}-\frac{\partial A^2}{\partial z}=-B^1
\end{align}

です(1, 2, 3は x, y, zに対応します)。さて、マクスウェル方程式の残りの式

 
\begin{align}
&\nabla\cdot\boldsymbol{E}=\rho\\
&\nabla\times\boldsymbol{B}-\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}=\boldsymbol{j}
\end{align}

の左辺と電磁場テンソルをよく見てみると

 
\begin{align}
&\partial_{\mu}F^{\mu0}=\partial_{j}E^{j}=\nabla\cdot\boldsymbol{E}\\
&\partial_{\mu}F^{\mu1}=-\frac{1}{c}\frac{\partial E^1}{\partial t}+\frac{\partial B^3}{\partial y}-\frac{\partial B^2}{\partial z}=\left(\nabla\times\boldsymbol{B}-\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\right)_1\\
&\partial_{\mu}F^{\mu2}=-\frac{1}{c}\frac{\partial E^2}{\partial t}-\frac{\partial B^3}{\partial x}+\frac{\partial B^1}{\partial z}=\left(\nabla\times\boldsymbol{B}-\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\right)_2\\
&\partial_{\mu}F^{\mu3}=-\frac{1}{c}\frac{\partial E^1}{\partial t}+\frac{\partial B^2}{\partial x}-\frac{\partial B^1}{\partial y}=\left(\nabla\times\boldsymbol{B}-\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\right)_3
\end{align}

となることが分かります。従って、4元荷電ベクトル j^{\mu} j^{\mu}\equiv(\rho, \boldsymbol{j})と定めれば、残っていた2つのマクスウェル方程式

 
\begin{align}
\partial_{\mu}F^{\mu\nu}=j^{\nu}
\end{align}

のようにまとまります。晴れてマクスウェル方程式を相対論の形式で1つの式にまとめることができました。また、マクスウェル方程式から従う連続の式

 
\begin{align}
\frac{\partial}{\partial t}\rho+\nabla\cdot\boldsymbol{j}=0
\end{align}

は相対論的形式で

 
\begin{align}
\partial_{\mu}j^{\mu}=0
\end{align}

と簡潔に書けます。もちろん上で導いたマクスウェル方程式 \partial_{\mu}F^{\mu\nu}=j^{\nu}から \partial_{\mu}j^{\mu}=0を導くことができます。 \partial_{\mu}F^{\mu\nu}=j^{\nu}の両辺に \partial_{\nu}を作用させると

 \partial_{\nu}\partial_{\mu}F^{\mu\nu}=\partial_{\nu}j^{\nu}

のようになります。この左辺に注目すると

 
\begin{align}
\partial_{\nu}\partial_{\mu}F^{\mu\nu}
&=\partial_{\mu}\partial_{\nu}F^{\nu\mu}\\
&=\partial_{\mu}\partial_{\nu}(-F^{\mu\nu})\\
&=-\partial_{\nu}\partial_{\mu}F^{\mu\nu}
\end{align}

が分かります。1つ目の等式では和を取る変数 \mu \nuを入れ替え、2つ目の等式では F^{\mu\nu}の反対称性を用い、最後は微分演算子を入れ替えています。この結果から \partial_{\nu}\partial_{\mu}F^{\mu\nu}=0となり、連続の式も導くことができました。
最後にローレンツ変換におけるマクスウェル方程式の不変性を確認しておきます。 F^{\mu\nu}は2階のテンソル量なのでローレンツ変換による変換性は前章から

 {F'}^{\mu\nu}=\Lambda^{\mu}_{\rho}\Lambda^{\nu}_{\lambda}F^{\rho\lambda}

です。 \partial_{\mu}は共変ベクトル、 j^{\nu}は反変ベクトルなので

 
\begin{align}
&\partial'_{\mu}F'^{\mu\nu}- j'^{\nu}=0\\
&\Leftrightarrow \partial_{\sigma}(\Lambda^{-1})_{\mu}^{\sigma}\Lambda^{\mu}_{\lambda}\Lambda^{\nu}_{\rho}F^{\lambda\rho}- \Lambda^{\nu}_{\rho}j^{\rho}=0\\
&\Leftrightarrow \Lambda^{\nu}_{\rho}(\partial_{\sigma}F^{\sigma\rho}-j^{\rho})=0 \ (\because (\Lambda^{-1})_{\mu}^{\sigma}\Lambda^{\mu}_{\lambda}=\delta^{\sigma}_{\lambda})\\
& \therefore\partial_{\sigma}F^{\sigma\rho}-j^{\rho}=0
\end{align}

となり、異なる慣性系において、同じ形の方程式が得られたので、マクスウェル方程式が不変(正確には共変)であることがわかります。

おまけ

前の章にまとめきれなかったことを少し書きます。詳しい過程は省略させていただきます。まず、マクスウェル方程式の最初の2つの式はベクトルポテンシャルスカラーポテンシャルの導入した時点で満たされると前章で書きましたが、電磁場テンソルを用いて表すこともできます。具体的には

 \partial^{\rho}F^{\mu\nu}+\partial^{\mu}F^{\nu\rho}+\partial^{\nu}F^{\rho\mu}=0

が2つの式と等価になります(確認してみてください)。また、上式に \partial^{\mu}A^{\nu}-\partial^{\nu}A^{\mu}を代入すると恒等的に0になることも分かります。

次に電磁場テンソルから作られる不変量、つまりスカラー量について調べます。電磁場テンソル F^{\mu\nu}から作られるスカラー量として

 F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}

があります。実はこの量は重要で、電磁場のラグランジアン密度と関連しています。定数倍も調整すると

 \displaystyle \mathcal{L}=-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}=\frac{1}{2}\boldsymbol{E}^2-\frac{1}{2}\boldsymbol{B}^2

が電磁場のラグランジアン密度となります。スカラーなので相対論的不変性を持ち、さらにゲージ不変性も兼ねています。

おわりに

ここまで目を通してくれた方、大変ありがとうございます。こうしたブログを書いた経験がなく最低限の記述に留めようとしたのですが、だらだらと続いてしまいました。教科書風の解説になってしまい、退屈な文章になってしまったかなと書き終えて思いました。アドカレと悩める応物生のためと謳って執筆しましたが、自分の理解の至らない箇所もあり、勉強の良い機会となりました。他の方々の記事も楽しみにしています。

参考文献

  1. ランダウ, リフシッツ著, 場の古典論=電気力学、特殊及び一般相対性理論=, 東京図書出版株式会社
  2. 坂本眞人著, 場の量子論 不変性と自由場を中心にして, 裳華房
  3. 米谷民明著, 相対性理論講義 入門から弦の相対論的古典力学まで, サイエンス社